経済危機で積立投資は「停止」すべきか?過去のデータが示すリスクと継続の価値
経済危機発生時、積立投資家が直面するジレンマ
経済危機が発生し、株式市場などが大きく下落する局面では、多くの投資家が資産の目減りを経験します。特に毎月一定額を積み立てる投資を続けている方にとって、「このまま積立を続けるべきか、それとも一度停止して様子を見るべきか」という問いは、非常に悩ましいものとなります。
日々のニュースで報じられる悲観的な見通しや、金融市場の混乱を目にすると、不安を感じ、損失の拡大を防ぎたいという心理が強く働くのは自然なことです。しかし、過去の経済危機を振り返ると、こうした局面における積立投資の「停止」という行動が、必ずしも合理的な判断であったとは言えないケースが少なくありません。
本稿では、過去の主要な経済危機における市場の動きと、積立投資を継続した場合にどのような結果が期待できたのかを検証します。これにより、経済危機下で積立投資を停止することにどのようなリスクが伴うのか、そして長期的な資産形成において「継続」が持つ価値について考察していきます。
経済危機と投資家の心理:暴落時の動揺
市場が大きく下落する経済危機時には、投資家の心理は非常に不安定になりがちです。保有資産の評価額が短期間で大きく減少すれば、誰しもが恐怖や不安を感じます。こうした感情は、冷静な判断を妨げ、「これ以上の損失を出したくない」という強い動機から、本来であれば避けたい行動(例えば、損失を確定させる安値での売却や、積立投資の停止)に繋がりやすくなります。
積立投資は、本来、市場の短期的な変動に左右されず、長期的な視点で資産を形成するための手法です。しかし、危機発生時の大きな下落は、この長期的な視点を揺るがし、投資開始時に設定した計画から外れる行動をとらせる可能性があります。
過去の経済危機事例から見る積立投資の行方
過去には、ITバブル崩壊、リーマンショック、コロナショックなど、世界経済や金融市場に大きな影響を与えた経済危機が幾度となく発生しました。これらの危機における市場の動きを積立投資の観点から見てみましょう。
どの危機においても共通しているのは、危機発生後に市場が大きく下落したということです。例えば、リーマンショック後の世界的な株価下落、コロナショック初期の急激な市場収縮などが挙げられます。
積立投資を継続していた場合、この市場の下落は「安い価格で資産を購入できる」機会となりました。積立投資のメリットの一つである「ドルコスト平均法」は、価格が高い時には少ない口数を、価格が低い時には多い口数を購入することにより、平均購入単価を下げる効果が期待できます。経済危機による市場の低迷期は、まさに多くの口数を積み立てる好機と言えるのです。
その後の市場は、時間差はあれども、いずれも回復局面を迎えました。安値で購入できていた分は、市場の回復とともに評価額が大きく増加する可能性を秘めています。仮に同じ銘柄に、危機発生直前に一括投資していた場合と、危機発生中も積立を継続していた場合を比較すると、回復期におけるパフォーマンスに差が出ることが、過去のデータから示唆されています。危機中に積立を継続していた方が、その後の評価額の伸びが大きくなる傾向が見られるのです。
積立投資を「停止」することの隠れたリスク
経済危機時に積立投資を停止するという判断には、いくつかの見落としがちなリスクが伴います。
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機会損失のリスク: 市場が最も低迷している時期に積立を停止してしまうと、安値で多くの口数を購入できる貴重な機会を逃すことになります。市場の回復が始まった際に、その恩恵を十分に受けられなくなる可能性があります。市場がいつ底を打つかを正確に予測することは非常に困難であり、停止している間に回復が始まるリスクを常に抱えることになります。
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感情に流された判断のリスク: 恐怖心から積立を停止し、市場が回復して安心感が広がってから積立を再開するという行動は、「安値で売り、高値で買う」という投資において最も避けたいパターンに陥るリスクを高めます。長期投資は感情に左右されない disciplined な投資行動が重要ですが、停止判断は感情的な動揺がもたらす結果となりやすいのです。
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ドルコスト平均法効果の喪失: 積立投資の大きなメリットであるドルコスト平均法は、市場が変動する中で継続することによってその効果を発揮します。特に下落局面で継続することで、平均購入単価を抑える効果が期待できます。積立を停止すると、この重要な効果を自ら放棄することになります。
経済危機時に積立投資を継続するための考え方
経済危機下においても積立投資を継続するためには、以下の点を意識することが助けとなります。
- 長期的な視点を堅持する: 積立投資は、数十年といった長い期間をかけて資産を育てる手法です。目先の市場の大きな下落は一時的なものと捉え、投資の本来の目的(教育資金、老後資金など)を見失わないことが重要です。過去の市場は、短期的な下落を乗り越え、長期的に見れば成長してきました。未来も同じように推移する保証はありませんが、歴史的な視点は冷静さを保つ上で役立ちます。
- リスク許容度に応じた無理のない設定か再確認する: 経済危機による資産の減少は、自身のリスク許容度を測る機会でもあります。もし、現在の積立額やポートフォリオが、大きな精神的負担となっているのであれば、無理のない範囲に見直すことも検討できます。しかし、それは積立そのものを停止するというよりは、金額や資産配分の調整であるべきです。
- 危機は永遠には続かないことを理解する: 過去の経済危機は、市場に大きな打撃を与えましたが、その後は必ず回復局面を迎えました。危機の最中にいる時はその終わりが見えないように感じられますが、歴史は市場が困難な時期を乗り越えてきたことを示しています。
結論:継続こそが長期資産形成の鍵
経済危機発生時の市場の混乱は、積立投資を続ける多くの人にとって試練となります。資産の目減りに対する不安から積立を停止したい衝動に駆られるかもしれません。しかし、過去のデータが示すように、経済危機による市場の下落は、積立投資においては安値で多くの口数を仕込む「バーゲンセール」の機会となり得ます。
一時的な感情に流されて積立を停止することは、回復局面での機会損失や、ドルコスト平均法のメリットを失うといった、長期的な資産形成にとって不利な結果をもたらすリスクを伴います。経済危機下においても、自身の長期的な目標とリスク許容度を再確認し、可能であれば淡々と積立を継続することこそが、多くのケースで合理的な戦略と言えるでしょう。
もちろん、個々の経済状況(収入の減少や急な支出など)によっては、積立額の見直しや一時的な停止が不可欠な場合もあります。しかし、純粋な投資判断として「市場が下がっているから停止する」という選択が、長期的に見て有効である可能性は低いことを理解しておくことが重要です。過去の教訓を活かし、感情に左右されない冷静な判断で、経済危機の局面を乗り越えていくことが、未来の豊かな資産形成に繋がります。