経済危機後の回復期:ポートフォリオがたどる軌跡と実践すべき戦略
経済危機は、多くの投資家にとって試練の時となります。市場全体の急落やポートフォリオの評価額減少に直面し、不安を感じることも少なくありません。しかし、資産形成を長期的な視点で捉えるならば、経済危機そのものだけでなく、その後の「回復期」にどのように市場が動き、自身の資産がどのように推移するのかを理解しておくことは極めて重要です。
過去の経済危機を振り返ると、市場は必ずしも一直線に回復するわけではありませんが、時間をかけて底を打ち、最終的には元の水準、あるいはそれ以上の水準へと回復していく傾向が見られます。この回復期にどのような心構えで、どのような行動をとるかが、その後の資産形成の成果を大きく左右することになります。
この記事では、過去の経済危機の事例から、回復期におけるポートフォリオの典型的な動きを解説し、この重要な局面で個人投資家が実践すべき資産形成戦略について考察します。
経済危機後の市場とポートフォリオの典型的な動き
経済危機が発生し、市場が大きく下落した後、回復期に至るまでのプロセスは、危機の種類や規模、政策対応などによって異なりますが、いくつかの共通する傾向が見られます。
- 底打ちと不安定な推移: 市場はどこかで底を打ちますが、多くの場合、すぐさまV字回復とはなりません。底値圏での揉み合いや、一時的な上昇と再下落を繰り返す不安定な値動きが見られることがあります。これは、経済の先行きに対する不透明感が lingering しているためです。
- 段階的な回復: 不安定な期間を経た後、経済指標の改善や企業の業績回復、金融緩和などの要因を背景に、市場は本格的な回復局面に入ることが多いです。この回復は比較的緩やかな場合もあれば、短期間で大きく値を戻す場合もあります。
- 資産間のパフォーマンス格差: 回復期においては、資産クラス間や業種間でパフォーマンスに大きな差が出ることがあります。例えば、危機で大きく売られた成長株が急反発したり、景気回復期待から景気敏感株が買われたりする一方、安全資産と見なされていた資産の価格が落ち着くといった動きが見られます。
- ポートフォリオ評価額の回復: 市場全体の回復に伴い、株式や投資信託などを組み入れたポートフォリオの評価額も徐々に回復していきます。危機時に積立投資を継続していた場合、底値圏で多くの口数を取得できているため、回復局面での評価額上昇の恩恵を受けやすくなります。
過去の具体的な事例として、リーマンショック後の市場回復を考えます。2008年の急落を経て、2009年3月頃に底を打った後、世界の株式市場は長い回復基調に入りました。回復の初期段階では政策効果や過度な悲観からの反動が見られ、その後は企業業績の回復などを背景に上昇が続きました。コロナショック後の2020年も、短期間での急落後、大規模な金融・財政政策やワクチンの開発期待などを背景に、異例の速さで市場が回復しました。
回復期に実践すべき資産形成戦略
経済危機後の回復期は、長期的な資産形成の道筋を確かなものにするための重要な局面です。ここで実践すべき主な戦略をいくつかご紹介します。
1. 冷静な現状分析と目標の再確認
経済危機を経て、ポートフォリオの評価額は一時的に大きく減少しているかもしれません。回復期に入っても、まだ完全に元の水準に戻っていない可能性もあります。このような時こそ、感情的にならず、自身のポートフォリオが経済危機でどのような影響を受けたのかを冷静に分析することが重要です。同時に、当初設定した資産形成の目標(いつまでに、いくら必要かなど)を再確認し、その達成に向けて現状がどのような位置にあるのかを把握します。目標が変わっていなければ、回復期における戦略もその目標に沿ったものであるべきです。
2. ポートフォリオのリバランスの検討
経済危機による市場の急落・回復は、ポートフォリオの資産配分(アセットアロケーション)を大きく歪めている可能性があります。例えば、株式が大きく下落したことで、ポートフォリオ全体に占める株式の比率が目標値よりも低下しているかもしれません。
回復期においては、設定した目標アセットアロケーションから乖離している部分を調整する「リバランス」を検討します。これは、本来の目標とするリスク・リターン特性に戻すために行う作業です。もし株式の比率が低下しているなら、目標値に戻すために株式を買い増すことになります。これは経済危機で割安になった資産を買い増すことにもつながり、その後の回復による恩恵を受けやすくなる効果も期待できます。ただし、リバランスは必ずしも絶対的なルールではなく、自身の現在のリスク許容度や市場の見通し(ただし予測は困難であることを念頭に)を踏まえて判断することが重要です。
3. 積立投資の継続、可能であれば増額も検討
経済危機が発生しても、特に長期的な視点で積立投資を続けている場合、回復期においてもその継続は非常に有効な戦略です。ドルコスト平均法の効果により、価格が低い時期に多くの口数を取得できているため、回復局面での値上がりによる恩恵を効率的に享受できます。
回復期に入り、市場が徐々に値を戻し始めた段階でも、まだ完全に回復していない、あるいは回復の初期段階であれば、積立投資は引き続き有効です。さらに、もし追加投資が可能な資金があるならば、回復期に積立額を一時的に増額したり、スポット購入を検討したりすることも一つの戦略となり得ます。これは、市場が本格的に回復する前に、割安な価格帯でさらに資産を積み増す機会を捉えることになります。ただし、これは市場のタイミングを計る行為に近くなるため、自身のリスク許容度や資金計画と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。最も重要なのは、積立投資を中断せず、当初の計画通り継続することです。
4. 長期視点の維持
経済危機後の回復期には、市場が一時的に大きく反発する場面も見られることがあります。このような時、短期的な利益確定に走ったり、あるいは回復の勢いに乗ってリスクを過度に取りすぎたりする誘惑に駆られるかもしれません。しかし、ターゲット読者層のような長期的な資産形成を目指す投資家にとって、最も重要なのは当初の長期目標を見失わないことです。
経済はサイクルを繰り返します。回復期の後には次の成長期が来る可能性が高いですが、その過程で再び調整局面を迎えることもあります。短期的な値動きに一喜一憂せず、設定した目標達成という長期ゴールに向けて、淡々と計画を実行し続ける姿勢が不可欠です。回復期に得られた含み益は、次の経済危機が来た際の下落に対する緩衝材としても機能し得ます。
5. 過度な予測や感情的な判断を避ける
回復期の市場は、時に不安定な動きを見せます。様々なニュースや経済指標が報じられ、専門家による多様な予測が飛び交います。しかし、どの予測が当たるのかを見極めることはプロでも至難の業です。回復期においても、経済や市場の先行きを過度に予測しようとしたり、他者の意見や感情に流されて売買を繰り返したりすることは避けるべきです。
過去の経済危機が教えてくれるのは、市場の回復力と、長期投資の有効性です。回復期においても、自身の立てた戦略に基づき、冷静に、規律をもって行動することが、不確実性の高い市場を乗り越えるための鍵となります。
まとめ
経済危機後の回復期は、市場が新たなサイクルへと移行する重要なフェーズです。この時期にポートフォリオがたどる軌跡を理解し、過去の教訓に基づいた適切な戦略を実行することで、経済危機がもたらした損失を回復し、その後の長期的な資産成長に向けた確かな土台を築くことができます。
重要なのは、経済危機そのものだけでなく、その後の回復期においても、冷静さを保ち、自身の目標とリスク許容度に基づいた行動を継続することです。リバランスの検討、積立投資の継続、そして何よりも長期的な視点の維持が、回復期を乗り越え、未来の資産形成を成功させるための鍵となるでしょう。経済危機の経験を、より強固な資産形成戦略を構築するための貴重な学びとして活かしてまいりましょう。