経済危機の軌跡と未来予測

経済危機下の投資信託・ETF選び:過去の教訓から考える長期投資のための基準

Tags: 投資信託, ETF, 経済危機, 長期投資, ファンド選び, 分散投資, リスク管理

経済危機時における投資判断の難しさ

世界経済はこれまで幾度となく経済危機に見舞われてきました。ITバブル崩壊、リーマンショック、欧州債務危機、そして近年では新型コロナウイルスのパンデミックによる市場の混乱など、その度に市場は大きく変動し、多くの投資家は資産評価額の急激な下落に直面しました。このような状況下では、投資に対する不安や迷いが生じることは避けられません。特に、将来の資産形成のために積立投資など長期投資を実践している方にとって、保有する投資信託やETFの評価額が大きく目減りする事態は、運用方針そのものを見直すべきかどうかの大きな問いを投げかけます。

経済危機は、市場参加者の心理に大きな影響を与えます。不確実性の高まりからリスク回避の動きが強まり、狼狽売りが新たな下落を招くといった負のスパイラルが発生することもあります。しかし、歴史を振り返れば、市場は必ず回復し、新たな成長局面を迎えてきました。重要なのは、危機という非日常的な状況下で、いかに冷静に、長期的な視点を失わずに投資判断を下すかです。

この記事では、過去の経済危機の経験から得られる教訓を踏まえ、経済危機時においても動揺せず、むしろ長期的な資産形成に資する投資信託やETFをどのように選び、あるいは既に保有しているファンドとどう向き合うべきか、そのための具体的な基準と考え方について解説します。

過去の経済危機が投資信託・ETFに与えた影響

経済危機が発生すると、多くの資産価格は下落します。株式市場の暴落は代表的な例ですが、これは株式を主要な投資対象とする投資信託やETFの基準価額・市場価格の急落に直結します。債券市場も影響を受けますが、リスク資産からの資金逃避先として一時的に買われたり、金融緩和によって価格が上昇したりと、その動きは状況によって異なります。しかし、全体としてはリスク資産への投資魅力が低下し、投資信託やETFからの資金流出が見られることもあります。

重要なのは、危機による価格下落の「幅」と「期間」、そしてその後の「回復力」です。過去の主要な経済危機では、市場は数ヶ月から1年程度の期間で大きく下落しましたが、その後は数年かけて元の水準に戻り、さらにはそれを超える上昇を遂げました。この回復過程は、長期投資家にとっては非常に重要な意味を持ちます。危機時の下落を乗り越え、その後の回復の波に乗ることが、長期的なリターンを大きく左右するからです。

投資信託やETFは、一つで多数の銘柄や資産に分散投資できる便利なツールですが、その性質上、市場全体の動きから逃れることはできません。しかし、どのような「中身」を持つファンドを選ぶかによって、危機時のパフォーマンスや回復力には差が出ます。

経済危機下でもブレない長期投資のための投資信託・ETF選びの基準

経済危機のような市場の混乱期に、冷静に長期投資を継続するためには、衝動的な売買ではなく、あらかじめ定めた基準に基づいたファンド選びが重要です。以下に、過去の教訓から考える長期投資のための投資信託・ETF選びの基準をいくつか挙げます。

基準1:徹底した分散の質

投資信託やETFを選ぶ最大のメリットの一つは分散投資です。しかし、単に多数の銘柄に投資しているだけでなく、「質」の高い分散が重要です。 * 資産クラスの分散: 株式だけでなく、債券、不動産(リート)、商品(金など)といった異なる値動きをする資産クラスへの分散がされているか。経済危機時でも比較的安定した値動きをする資産(例:国債、金)を組み込んでいるか。 * 地域・国の分散: 特定の国や地域に偏らず、世界中の市場に分散投資しているか。経済危機は特定の国や地域から発生することが多いため、地理的な分散はリスク低減に有効です。 * セクターの分散: 特定の産業分野(セクター)に集中せず、幅広いセクターに分散投資しているか。特定のセクターが危機の影響を大きく受ける場合でも、他のセクターの値動きでポートフォリオ全体の変動を抑える効果が期待できます。

インデックスファンドの場合、対象とする指数がどのような分散を図っているかを確認します。全世界株式インデックスなどは、この点で優れた分散性を提供します。アクティブファンドの場合は、ファンドの運用戦略がどのように分散投資を行っているか、ポートフォリオの中身が偏っていないかを確認することが重要です。

基準2:低コストであること

長期投資において、コストはリターンを確実に圧迫する要因です。特に、信託報酬のような継続的にかかるコストは、運用期間が長くなるほど無視できない差を生み出します。経済危機による市場の下落局面でも、コストは日々差し引かれていきます。 市場が不安定な時期にリターンが期待しにくいからこそ、確実にリターンを損なうコストは低いものを選ぶべきです。インデックスファンドは一般的にアクティブファンドよりも低コストであり、長期投資との相性が良いとされます。

基準3:運用会社の信頼性と情報開示の透明性

経済危機のような不確実性の高い時期には、投資先の運用会社が信頼できるかどうかも考慮に入れる価値があります。長年の運用実績があり、過去の危機も乗り越えてきた実績を持つ運用会社は、ファンドの管理体制やリスク管理能力が一定水準以上であると判断できます。また、ファンドの運用状況やポートフォリオに関する情報が透明性高く開示されているかどうかも重要な基準です。 crisis時こそ、投資家は正確な情報を求めています。

基準4:自身の投資目標・リスク許容度との一致

どのような優れたファンドであっても、自身の投資目標やリスク許容度から大きく外れているものであれば、経済危機のような困難な時期に方針がブレやすくなります。「長期で資産を増やしたい」「元本割れは極力避けたい」「〇年後に教育資金が必要」など、ご自身の目標を明確にし、その目標達成のためにどの程度のリスクを取れるのか(リスク許容度)を事前に把握しておくことが大前提です。そして、選ぼうとしている投資信託・ETFが、その目標や許容度に合ったリスク・リターン特性を持っているかを確認します。過去の経済危機時におけるそのファンド(あるいはベンチマーク)の値動きを参考に、自身の許容できる下落幅なのかをシミュレーションしてみることも有効です。

基準5:流動性(ETFの場合)

ETFは証券取引所に上場しており、株式のように取引時間中いつでも売買できます。経済危機時には市場の流動性が低下することがありますが、主要な指数に連動する大型ETFであれば、比較的流動性は保たれやすい傾向にあります。しかし、特定のテーマ型や新興国の市場など、ニッチなETFの場合は流動性が低下し、希望する価格で売買しにくくなるリスクも考慮しておく必要があります。

経済危機時におけるファンドとの向き合い方

既に投資信託やETFを保有している状態で経済危機を迎えた場合も、上記の基準で自身のポートフォリオを見直すことは有効です。その上で、以下の点を意識することが重要です。

まとめ:経済危機を乗り越えるための選択と継続

経済危機は投資家にとって厳しい試練ですが、同時に長期的な資産形成における重要な学びの機会でもあります。過去の歴史は、市場の回復力と、困難な時期に冷静に、そして規律を持って投資を継続することの価値を示しています。

経済危機時においてもブレない長期投資を行うためには、投資信託やETFを選ぶ際に、単に過去のリターンだけでなく、「分散の質」「コスト」「運用会社の信頼性」「自身の目標との一致」といった、危機の状況でもその価値が揺らぎにくい基準を重視することが不可欠です。そして、一度定めた長期的な視点と戦略を、市場の短期的な変動や感情に左右されずに継続する力が最も重要になります。

これから投資を始める方も、既に投資をされている方も、経済危機の経験を教訓として、ご自身の資産形成戦略に活かしていただければ幸いです。不確実な時代においても、適切な知識と準備があれば、リスクを管理しながら着実に資産を築いていくことは可能です。